AYモデルと呼ばれるアイデア発想法の(講義における)有用性を考える

2026/08/01

先日、アイデア発想に関する調べ物をしている中で「AYモデル」と呼ばれる手法に関する論文を見つけました。

さらっと目を通したところ、しっかりとしたモデル図が考えられており、面白そうだったので一通り読んでみることにしました。ちょうど講義でおこなうアイディエーションについて考えていたこともあり、活用できる面があれば参考にしてみたいなと思います。

AYモデルとは

AYモデルとは、熊谷彩乃氏と大塚有希子氏が開発した、アナロジー思考を応用したアイデア発想手法です。論文を読むと、既存手法が持つ「別領域」と「組み合わせ」の2要素を再構成したアプローチだと言えそうです。工程は3ステップに分かれており、まずはじめに用意したテーマを「目的」と「対象物」に分け、それぞれの抽象度を3段階に分けて上げていきます。このとき、ひとつ前の要素をもとに抽象度を上げるのがポイントのようです。目的と対象物の抽象度を上げた項目(a1〜3、b1〜3)を記述したら、次に、各項目を手がかりに具体化して要素(A1〜3、B1〜3)を発散していきます。最後に、A,B1〜3をマトリクスに配置し、それぞれの組み合わせからアイデアを発想していきます。3ステップ目の組み合わせでは、大喜利のフォーマットを応用して「AみたいなB、どんなの?」という問いに変換することで、組み合わせを活かしたアイディエーションにつながるように設計されているようです。

AYモデル(出典:熊谷彩乃・大塚有希子 2026「別領域との組合せを促すアイデア発想手法「AYモデル」の実践検証」図5)

AYモデル(出典:熊谷彩乃・大塚有希子 2026「別領域との組合せを促すアイデア発想手法「AYモデル」の実践検証」図5)

このモデルは抽象度の変換を3段階設けることで用意するアイデアの素の幅を、マトリクスを用いることでアイデアの数と幅をそれぞれ担保できるのが強みだと理解しました。ここまでの印象では、各プロセスがわかりやすく、具体的な成果物が出やすい(おそらくアイディエーションに慣れてない人にとっても)ことに好印象を抱きます。

では、AYモデルは実際に講義に取り入れられそうでしょうか。あくまで「自分の講義においては」と前置きが入りますが、現状での活用は難しいように感じました。理由としては、このモデルが「具体的なテーマ」を出発点にしていること、アイデア発想のための問いを立てる仕組みになっていることの2点になります。論文では検証の際に用意されたテーマが「自給自足するヒーター」「読みたくなる社内メッセージ」「ホテルの IT サービスソリューション」と、かなり具体的です。これはテーマを大喜利フォーマットに乗せるために「目的」と「対象物」に分ける必要があるためです。となると、おそらくですがこのモデルは「作りたいものや取り組みたいことがすでに挙がっている状態から、ほかの可能性を広く探るように舵を取る」といったシチュエーションで活きると考えられます。自分の講義では、何を作るかは実際に作り始める直前に探索して決めるため、新たに別の可能性を探るというのは、講義の流れからすると冗長になってしまいます。また、2つ目の理由である「問いを立てる仕組みになっている」ことにも直結するのですが、作るものを探るためにHow Might Weを導入しているので、AYモデルの「大喜利形式で問いを立てる」アウトプットとうまく噛み合わない、という面もあります。How Might Weを目的と対象物にわけてAYモデルに組み込めないか…とも考えて試してみたのですが、How Might Weは必ずしも目的と対象物が含まれるわけではないため、AYモデルの形式に当てはまらないパターンが割と出てしまいました。現状ではHow Might Weを起点に抽象度を変えたりアナロジー思考をおこなっているため、AYモデルを加えたり置き換えたりは難しそうだな、というのが感触です。

というわけで、興味深いアプローチでしたが残念ながら講義に取り入れるのは難しいという結論になってしまいました。一方で、AYモデルのプロセス自体や、成果物が整理された状態で可視化される仕組みは読んでいて勉強になりました。How Might Weは問いを考えること自体に経験値が求められたり、そこから発散されるアイデアの粒度もバラバラになりやすいので、まだまだ講義向けに改良できる余地はありそうだな、とヒントをもらえたような気がします。

論文を読んでいて気になったポイント

以下は蛇足で、論文を読んでいて気になったポイントをいくつか書き残しておこうと思います。

抽象度の上がり方と内容

論文にはAYモデルの事例が2つありますが、抽象度の上がり方に少し不自然さを感じます。

熊谷・大塚 2026, 図6・図7 をもとに筆者作成

熊谷・大塚 2026, 図6・図7 をもとに筆者作成

特に図6の「社内メッセージ→全社員に提示される→待ち時間が有用に使える」は違和感が強いです(なぜ全社員に提示されることを抽象化すると待ち時間が有用に使えるのか?)。着想元のひとつであるバリューグラフでは、上位目標に上がるときは「何を目的としたものか」が、下位の手段に降りるときは「どのように」が問いとして使われます。AYモデルの上向きの矢印は「どうしたら?」なので、バリューグラフでいう下向きの問いが抽象化と呼ばれていることが不自然さの原因かもしれません。図4で示されているアナロジー思考の抽象化は自然なので、抽象度を上げる、という案内は変えてもいいのではと感じました。個人的には以下のように、まずa-1,b-1では目的と対象物を抽象化して定義したうえで「a-1, b-1だと言えるためには、何が満たされれば達成するのか」といった、より前提を構成する条件・状態を書き出す、といった流れだと違和感が減る気がします。

図6・図7の構造をもとに、上向きの流れを解釈し作成したもの

図6・図7の構造をもとに、上向きの流れを解釈し作成したもの

発想されるアイデアの質

AYモデルではA-3やB-3のように、距離が遠い要素同士の組み合わせから生まれたアイデアのほうが、よりイノベーティブであるという仮定が述べられています。ただ、論文で示されている「ドキュメンタリーみたいな時計=カウントダウン形式のメッセージ」や「RPGみたいなアルバム=RPG風のアルバム機能」からは自分は新規性や独創性は感じられませんでした。前者に関しては、もともとのテーマである「読みたくなる社内メッセージ」を満たすアイデアか疑問が残りますし、後者に関してはChatGPTが出力した点を加味しても「大喜利的な発想ではなく、単なる掛け合わせにすぎない」印象が強いです。また、前述の仮定に立つと、そもそもA-1やB-1といった、抽象度が上がりきっていない要素から生まれるアイデア=重要度が低いという評価が自動的についてしまうデメリットがあるように感じます。ですが図6の発散を見ると、a-1から生まれた「マンガ」からは読みたくなるメッセージのアイデアが生まれそうな感触がもっとも強いです(あくまで主観ですが)。一方で、アイディエーションに慣れていない人向けの導入として、わかりやすい組み合わせから入るという意味では、距離の近い要素にも役割はあると言えるのかもしれません。

検証内容について

検証では各手法とAYモデルを用いたアイデア発想が実施されましたが、AYモデル以外の手法の平均所用時間10分というのは短く感じました(AYモデルは要素抽出10 分、組合せ10 分)。「各手法の所要時間を AY モデルに合わせて 20 分に統一することは、 被験者への過大な負担となり」とありますが、過大な負担とまで言うのは誇張表現のように思われます。もちろん長くやればいいというわけではありませんが、実務を想定すると10分は検証として弱く感じます。2軸図の構造シフト発想法がブレスト(10分実施)を下地にしていたり、手法ごとに取り組み方が揃っていないのも気になります。また、AYモデルのみChatGPTを補助的に使用しているのも公平さが不足しているように感じました。「アイデア発想までに比較的長時間を要する特性を踏まえ」とありますが、AIを活用するという観点では、他の手法でも一律採用したうえでの評価を見てみたかったな、と思いました。とは言え、それだと検証のテーマがブレそうな気もしますが。加えて、ChatGPTのプロンプトに大喜利フォーマットが使われていないのも気になりました。出力内容が単なる掛け合わせにしかならなかったのはこれが原因のように感じます。